毒の石

壱ノ参





暫くして息を切らせて戻ってきた男はあたしを見てふにゃりと情けない顔で笑い


「いた…!」


と言って何故か抱きついてきた。


それからあたしは面倒なのでされるがままになっているといつの間にか向かい合わせに座らされ、ジーッと顔を見つめられた。


そして男は難しそうな顔をした。


「なんだその顔は。どうした」


思わずツッコむ。


「さっき…もしも思うところがあったら戻ってこいって言った」

「言ったな」


頷くと男は


「その後に…戻ってこい、って、言った…」


と続けた。


あたしはまたそれに頷く。

「そうだな、約束した」


「思うところはあった。でも約束したから俺戻ってきた。戻ってこいって言ったから…だから…」


泣きそうな顔で、震える声でそう言う男に苦笑する。


「仕方ない奴だな、こんな短時間であたしに入れ込みやがって。あたしを信じたいのか?」


「ん…信じ、たい…だから、信じさせて…」


なんて面倒で、馬鹿で、綺麗な男なんだろう。


幾度となく裏切られてきたくせに。


それでもあたしを信じたいと言う。


「ふっ…気に入った。透夜(トウヤ)、おいで」


拒絶されることに怯え震えていた男、緋翅透夜(アカハネトウヤ)に腕を広げて見せるとプルプル震えながら抱きついてきた。


…なんだろう、デカいのに小動物みたいだな。


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