毒の石
「俺の、名前…」
ボソッと耳元で呟かれくすぐったさを堪えながら
「ん?」
そう訊き返す。
「名前、初めて呼んでくれた…」
「あぁ…まぁ元々関わる気なかったしな」
透夜の言葉に苦笑しながらそう言うと透夜はバッと身体を離してあたしを見つめる。
その目は今にも泣きそうで、眉はハの字に下がっていた。
「待て待て、ちゃんと過去形で言っただろうが。おまえとは関わってやるよ」
怖がりすぎだろうと思いつつそう言うと透夜は肩の力を抜いて倒れ込むように抱きついてきた。
「おまえ表情豊かだなぁ」
無表情と言われている割にはころころ表情が変わるので思わずそう言うと透夜はまた身体を離して驚いた顔をした。
「俺の表情わかるの…?」
「………あぁそうか、おまえみたいなのを普通は無表情っつーんだな」
確かにあまり顔の筋肉は動いていないが表情がわからないなんてことはない。
あたしから見たら表情豊かな方だ。
「大丈夫、おまえはちゃんと顔に出てるから。無表情とか言われんの気にしてんだろ?周りのことなんか気にすんな、あたしの言うこと信じてろ」
フッと笑って言うと透夜は何度も頷いた。
そしてまた抱きついてきた。
「んで、透夜、話を戻そうか」
「あ…うん、思うところなんだけど…」
「ん、言ってみろ」
そこまで言って口を閉じてしまった透夜に優しく静かに先を促す。