毒の石


「そういえばそうだったな」


苦笑しながら頷くと透夜は変わらずあたしをジッと見つめ、







「名前、なんていうの?」







と訊いてきた。


そう、透夜が黙ってしまった理由。

それはあたしが自己紹介をしていなかったから。


いやーお互い気づかないってすげぇな、うん。


「岼埜春だ」


笑顔で簡潔に答えると透夜は拗ねたような顔をした。


「…それ本名?」


少しの沈黙のあとそう訊いてきた透夜にあたしは眉尻を下げて困った顔をした。


「そう言われてもなぁ…」


「…さっき言い忘れたけど。俺の傍にいてくれるなら他の奴と仲良くしてなんて言わない。むしろ仲悪い方がいい」


自分だけを、ということだろう。

独占欲、だな。

まぁ嫌いじゃないが。


「俺はおまえだけしか見ないし信じない。だからおまえも俺だけを見て、信じてよ」


「ふぅ…しょうがないな…」


言うまで引かないだろう透夜にあたしは溜息を吐いて本名を言うことにした。


「あたしの本当の名前は紅琥珀(クレナイコハク)。正式にはアンブル・クリムゾン」


「アンブル・クリムゾン?紅琥珀?なんでそんなにいろいろ名前があるの?」


「アンブル・クリムゾンを日本名にすると紅琥珀、ただそれだけだよ」


アンブルはフランス語、クリムゾンは英語。


両親の国の言葉を使った名前だ。


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