毒の石
「透夜は悪くない。ここに着く少し前に連絡をしてくるそいつが悪い。しかしどうしたもんか…」
巧く誤魔化すしかないわけだが…。
「そうだ、そのフードついてる上着かして。それ被って教壇の下にでも隠れてるから透夜はいつも通りにしてて」
上着を着るのは念のためだ。
背景に溶け込む色の方が見つかり難い。
教壇の下に隠れて連中が出て行くまで気配を消していれば大丈夫だろう。
「ん、わかった」
素直に頷いて上着を渡してきた透夜に微笑して上着を羽織り、サッと教壇の下に隠れる。
四人分の気配を感じて少しして、扉が開く音がした。
「よぉ透夜!起きてるかー?」
そんな一声とともに入ってきたのは百合原律毅(ユリハラリッキ)。
先程透夜に電話したと思われる男だ。
「チッ…死ね」
透夜はそんな百合原律毅に舌打ちをしながらそう言った。
「えぇ!?なんで!?」
そう叫んだのは紛れもなく百合原律毅。
百合原律毅は随分と騒がしい奴だな…。
話を聞く限り百合原律毅は秘龍の中で最も騒がしく最もキレやすいということだったが、死ね、と言われて舌打ちまでされてキレないとは…。
むしろそのことにショックを受けているように思える。
「律毅邪魔。僕たち入れないじゃん」
僕という一人称を使うのは連中の中で一人だけ。
咲倉柚雨(サクラユウ)。
「透夜はなにそんな怒ってるわけ?」
「煩い」
「はぁ?意味わかんないんだけど。なんなの?」
怒ったような口調の咲倉柚雨は、可愛くて柔らかい口調で滅多に怒らないと聞いていたが…。
「まぁまぁ落ち着いて二人とも」
言い合いを始めようとする二人を止めたのは優しい口調の男。
こいつは確か…。