あなたに送ったものでした
ライブの次の日、夜さんと2人で渋谷のスタジオに入った。

スタジオに入るなり夜さんが言った。

「ライブ疲れたよー。真理ちゃんといるとマジ癒されるわ」

な、何を言うんだろう...

かなり照れたけどお世辞だろうから、笑って誤魔化した。


とりあえず夜さんにもらった夜さんのCDの曲を合わせてみることになった。

夜さんのCDに入っていた3曲なら耳でコピーしたからピアノパートは全部弾ける。

最初に「Dream」という曲を合わせた。

お、いい感じ。ギターとピアノの音色が混ざりあう。

前奏が終わってAメロに入ると、夜さんは演奏をやめた。

「さっき音おかしくなかった?コードはEメジャーセブンだよ」

「いーめじゃ...?」

ヤバい。コードなんてわからない。

「真理ちゃんはクラシック出身だもんね。コードわかんなくて当然だよ」

「す、すみません。勉強不足で」

「いいよ。これから覚えればいいんだ。Eメジャーセブンていうのは、ミとソ#とシとレ#の和音のことだよ」

「わ、わかりました」


そうやってひとつひとつのコードの構成音を確認していたら、覚えきれなくなってしまった。

私は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

それが伝わっているのか、夜さんもどことなく気まずい雰囲気だ。

コードもわからないなんて...あきれたよね。

嫌われちゃったなぁ。

もう一緒に音楽できないのかなぁ。


結局、時間いっぱいまで夜さんのコード講座を受けた。

退室を告げるランプが点滅しだしたので帰る準備を始めると、夜さんは思いがけないことを言った。

「1月25日に千葉県の柏でライブに出るんだけどね、真理ちゃんも出ない?」

ん!?なに!?

「え、私なんかが出ちゃっていいんですか、それ」

「いいに決まってるじゃん」

「...なら出てみたいです」

「よし、じゃ決定ね☆よろしく!」

「は、はぁ」


こんな簡単に決めていいものなのか?

ていうか今日あんなに私は不甲斐なかったのに、何で一緒にライブに出る気になるんだ?



後々夜くんに聞いてみると、この時私は試されたらしい。
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