あの星空はいつまでも変わらないままで
月が、薄白い光で草木を、二人を照らしていた。
かんざしでまとめていない髪は肩より長くて、
優しい目をした娘だった。
* * * *
「君の名前はなんという?」
高寛は娘にそう訊いていた。
「...細川すずといいます」
「僕は松倉高寛だ。君は、十四か十五歳かな?」
「はい、十五歳です」
「そうか、僕も十五歳だ」
そう言いながら、高寛は掴んでいたすずの手を離した。
すずはその手で、すぐに涙をぬぐった。
高寛はなぜ、すずが泣いていたのか疑問に思った。
だが、話したくないこともあるだろうと涙の理由は聞かないことにした。
「すず、女が夜中に一人だったら危ない。家にお帰り」
「嫌です」
と、すずは強気な声で答えた。
「母上と喧嘩しました。もう家に戻るのは嫌なんです」
そう言って、二、三歩、歩いて草の上に座った。風がすずの髪を揺らした。
そして高寛も、すずの右隣に座って言った。
「僕も家には帰りたくない。全部僕に押し付けるから」
少しも自由じゃないんだ、とそう言って高寛は上を向いた。
「だから僕は、ここに来て星を見る。嫌なことを忘れるくらいの美しい星空があるから」
そう言って、高寛は上を向いて少し目を閉じた。
そして右隣の方を向くと、すぐに視界に入ったのは、すずの笑顔だった。