ゾルダート―セルジュの憂鬱(2)

発声練習

パンパンと先輩が手を鳴らすと、窓ガラスをガラリと開けて、外からパウルが登場したんだよな〜。


お前は、鯉かぁ!


なんでオレのデスクの窓の近くにヤツがいるんだぁ!?しかも、外から来るかぁ、即!?



パウルは全くオレのげんなりした視線を意に介せず、こっそりウィンクしてみせたんだな〜。


「……………なんだ、レイ」


先輩とパウルは仲がよくて、たまに飲みに行ったりもするんだが、オレとしては、この二人にくっついてほしくてたまらない〜。けど、計画する度にキツい「オトシマエ」を先輩につけられてきてな〜。


「んじゃ、あとはお二人でぇ……」


ダッシュで逃げようとするオレの襟元を、パウルがガシッとつかみやがったぁ!


「……………待て。語尾の練習だな。俺と一緒に練習しよう」


こいつ、聞いてやがったぁ!無口なヤツに語尾をどうこう言われたくないぞぉ!


「そこだ!その『ぉ』がいかんのだ!」


「心を読みやがったぁ!!だから、なんで小文字だって分かるんだよぉ!」


オレの叫びはむなしく、パウルは話を続けてさ〜、いつの間にかレイ先輩はいなくなってた〜。


「最初は『い』だ!さあ、発音しろ!さあ!さあ!」


ダメだこりゃぁ。こないだは乙女だったが、今はスパルタ教師になってやがるぅ。仕方ないから従ってみるかぁ……。


「……い」


「よし!『い』はできるな」


当たり前だろうがぁ!そして、普通は「あ」からじゃないのかよぉ!


そうツッコみたくなったときにさ〜、オレはふっと気づいたんだ〜。


まさか……このまま『ん』まで……?


「次は『ろ』だ!『ろ』だぞ!口をこう開いて……」


パウルが、口を思いっきり大きく開けやがったぁ。吹き出しそうだが、オレはひそかにツッコンだぁ……。


「いろは」かよぉ!「あいうえお」じゃないのかぁ!?


「やめぇ!もうやめだぁ!このまま最後まで付き合っていられるかぁ!だいたい、問題はそこじゃないだろうがぁ!オレの語尾が小文字だから……」


「はーい、認めたわね」
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