我妻教育2
思った以上に大きな声が出て、自分の声に驚いた。

啓志郎くんも驚いている。


啓志郎くんの背景は、権威の象徴のような大きな自社ビル。

大きくて、見上げなければ空は見えない。


唇を噛み締める。


誰か教えてよ。

どうして、こんなに惨めなの…?!


ずっと堪えていた負の思いが噴き出して、つーんと鼻の奥が痛くて、顔をしかめた。


「どうした?泣いてるのか?」


「泣いてない」

言ってから、ボロッと涙がこぼれた。


コートと荷物とで両手がふさがって、さっと拭くものを取り出せないあたしに、啓志郎くんが自分のハンカチを差し出してきた。

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