融解温度
「え〜今日は転校生の紹介をします」

突然の全校集会。生徒のざわつきがピークに達する。

「はいはい静かに。及川くん、お願いします」

全校生徒の視線が惜しみなく注がれる中、涼しい顔で先生の元へ歩いていく。

マイクを受け取ると、及川と呼ばれた生徒は華やかな笑顔を顔に貼り付けて自己紹介をはじめた。

「及川大樹です。中学二年までこっちにいたんですけど、親の都合でアメリカに二年住んでいました。分からないことだらけなので、色々教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」

アイツ…また女の先輩に目つけられるな。

「え〜、及川くんには今日から1年3組の仲間になってもらいます。次は…」

後ろで女子たちが歓喜する声が聞こえる。

同じクラス…ってことはやっぱり…



「及川くんの席はえっと…江上さんの後ろになるわね、江上さん、時間が空いたときにでも及川くんに校舎の中を案内してあげてくれる?」

「……あ。はい分かりました。」

三十路過ぎて今だ独身の枯れた女教師へ気の抜けた返事を返す。

及川大樹がこちらに笑顔を向けたが知らんぷりをして目を閉じると、足音が少しずつ近づいてくるのを感じた。

思わず身構える。

窓側の後ろから二番目。

私の席を通り過ぎようとすれ違うほんの一瞬、肩に手を置かれる感触。

少し身を屈めて、耳元に、鼓膜に直接声が響く。

「帰ってきたぞ」

ビクンと背筋に電流が走った。

それを察してか、クスッと馬鹿にしたような笑い声が聞こえる。

そのあとも、HRが終わるまでずっと頬の熱が冷めることはなかった。
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