融解温度
「さぁ…帰りましょうかね」

「そーですね」

「もう遅いし、一緒に帰るか」

「カップルかっての」

「ええ〜?じゃあ本物のカップルになっちゃう?」

「女子の目が怖いからパス」

「まぁ俺モテるしな」

「ぶち殺そうか、ナルシスト」

「ひっでぇ」

「まぁ、あんたの本性知ったら女子も去っていくわな」

「お前変わんねぇな」

「…変わったよ、何もかも」

夕方の田んぼ道は、まだ残暑残る日差しが照りつけている。

さりげなく車道側を歩いてくれていることも、私に合わせて歩いてくれていることも、気づいてないフリをする。

「今は誰と住んでるの?」

「一人暮らしだぜ〜いいだろ〜」

「そっか…え、どの辺?」

大樹は小さい頃に両親が離婚して以来、父子家庭で育ってきた。

父親は転勤が多くずっとこの地域の親戚の家に住んでいたが、留学も兼ねて父親についてアメリカに行ったらしい。

私も母子家庭で育ってきたので、お互い意気投合したというのがきっかけで、今の関係が出来上がったというわけだ。

家族が欠けていることへの、人には言えないさみしさを互いで補う、恋人でも親友でもない私たちだからこそ成り立つ関係だと思う。

「えっと…交番の近くのコンビニあるだろ、あそこ真っ直ぐ行った先のマンションなんだけど…」

「……三階建てでエレベーターのない?」

「お、そうそう。よく知ってんな、まさかストーカー?」

「大概にしとけ。私そこのマンションの三階」

「え、まじか」

「お前がストーカーじゃん?」

「誰が」

「あーはい調子乗りましたすいませんモテ王子様」

「さすが田舎だな、俺二階の階段から二個目の部屋」

「うっわ、うちの真下かよ」

「んじゃあさ…」

「なに」

「荷解き手伝って」

「いや」

「は、即答かよ。」

「女の子を部屋に誘うとか下心しか見えないんですが?」

「俺デブ専じゃねぇよ」

「あのね、私まだ平均体重だからね?他の女の子より体重重いけど、それだけ身長があるから。170cm舐めんなよ?」

「それ何回聞いたか」

「何回言わせんの全く…」

こういうくだらない会話ができることが、楽しくて嬉しくて仕方が無い。

離れていた二年間を埋めていくように、次々言葉が溢れてきて、結局今週の土曜日に一緒にカラオケに行くことになった(家に行くのは拒否した)。
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