融解温度
「ファーストキス、奪われちゃった」

体を起こしながら、満更でもないように笑う原田。

「キスってこういうものなんだね〜」などと言っては楽しそうだ。

「じゃあさ、セカンドキスも俺に頂戴よ」

「そんなのあるんだ」

「…知らね。今考えた」

「なんだよそれ〜」

「はい、二回目」

ちゅっと音を立ててキスをして、「どう?」と原田の肩ぐらいまでの髪をいじる。

ちらりと見つめると、

「じゃあ、サードキスも渡辺くんにあげるね」

と、今度は向こうから唇を寄せてきた。

唖然としている俺を見て、満足したようにニヤつく。

本当に、わからない奴だ。





それからは終業のチャイムが鳴るまでお互いのことを話していた。

俺の親も離婚していること、父親は転勤族で、ずっと祖母と暮らしていること、父が上司の娘の家に婿養子に入ろうとしていること。

俺の話を相槌を打ちながら黙って聞いていた原田も、自分の話を始めた。

実の父親がDV男で、それ以来男の人が怖いということ、両親は駆け落ち同然の結婚だったために頼れる親戚もおらず、母親はパートをいくつも掛け持ちしていて今にも倒れそうだということなど。

似たような境遇もあってか、俺たちはすぐに仲良くなった。

「なぁ、原田」

「なーに?」

「また、キスしてもいい?」

「これから?」

「うん。なんか、原田とのキスは安心するっつーか…」

「それ、私も思った」

「本当か?」

「うんうん。またしたいなぁとも思った」

「じゃあ、決まりな」

「おう!えっと、よろしくね、お友達?として」

「キスする友達って変だよな」

「いいんじゃない?」

「……まぁ、それもそうか」

こんな軽い約束で、俺と原田の秘密の関係が始まった。

表向きは普通の友達。

原田は多趣味で、話を聞いていてとても楽しいし、ノリもいいので一緒にいて楽だった。

でも


「ん…また、上手くなったね、キス」

「うるせー。ねぇ、好き?」

「またそれ?甘えん坊さんだな〜」

「ばぁーか。で、どう?」

「好きだよ、渡辺くんとするキス」

「あっそ」

「本当は嬉しいくせに」

相変わらず二人きりになるとキスをした。

原田からもしてはくれるけど、やっぱり俺からする方が多い気がする。

キスをするたびにさみしさが紛れた。

原田と普通にお友達するのも楽しかった。

その関係が終わりを告げたのは、中学二年の冬休み______

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