新撰組異聞―鼻血ラプソディ
いつの間に縫い付けたのか、土方の手には2本分つなげた手拭いが握られている。

土方はそれを手際よくスルスルと、翡翠の目に巻いていく。


「山南さん、後ろ結んで」

山南は涼しい声で応えて手拭いをきつく、ずれないように結ぶ。


「大丈夫ですか」


「……はい」

何も見えない不安、翡翠の耳に声だけが静かに響く。

右も左も、自分が何処を向いているのかさえも、感覚を失う。

座った時に、腰脇から抜き、利き手側に置いた竹刀と真刀を手探りで掴む。


「翡翠、隊士たちには事情を伝えておく。稽古も見廻りも目隠しを外さないように」


「歳さん!? 危険すぎます」

山南が声を荒げる。


「……山南さん、これでええんや」

翡翠は穏やかに呟く。


「信太さん!?」


「ええんや……今日、見廻り出てわかってん」

翡翠はポツリポツリと、話す。


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