新撰組異聞―鼻血ラプソディ
「沖田さんの後ろについて、見廻りさしてもらって……ただ歩いて。
それだけが、あんなに恐いなんて思えへんかってん。
見えることが……あんなに恐いなんて……見えへん恐怖は、どんなんかわかれへんけど……どっちも恐いなら、試してみようって思てる」


「そう……ですか」


山南は溜め息をつき、不思議そうな顔で翡翠を見る。


「山南さん。面倒かけてすまないけれど……翡翠は見ている限り、勘は良いはずだから」

山南は短くこたえて、翡翠の手をとる。

夕闇に沈んだ部屋は、目隠しをしていなくても薄暗い。

山南は目隠しをした翡翠には尚、暗いだろうと思う。

手をとって、その手の冷たさに思わず声を漏らす。

真冬ならいざ知らず、まだ法師蝉(つくつくぼうし)も啼いているのにと、緊張のほどを察する。


「恐いですか」

愚問だとわかっていて、山南は訊ねる。


「そうでもあらへん」


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