新撰組異聞―鼻血ラプソディ
斎藤のクールな声や他の隊士達の囁きが、翡翠に浴びせられる。

全てを気づかない、聞こえないふりをし、翡翠は小走りで部屋へ急ぐ。

山南は息を切らし、部屋へ駆け込んできた翡翠を、驚いたように見上げた。


「どうしました?」


「……手拭いがほどけてしもて、体が震えてきそうで……走ってきた」

翡翠はそれだけ呟いて、額の汗を手で拭った。


「情けないな」と頼りなげに呟いて、腰に差した刀と竹刀を鞘ごと抜き、翡翠はペタリと正座する。

懐に折り畳んで入れた手拭いを広げ、目に当てる。

山南がそれをスルスルと、翡翠の目に巻きつけ、丁寧に目隠しし、後頭部できつく結わえた。


「信太さん、少し横になって休みませんか。顔色が悪い。長い1日になります」

土方は宴の席に出てくる前、翡翠に声をかけたが、翡翠がただ頷くだけで、何も言わなかったことが気がかりだった。


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