新撰組異聞―鼻血ラプソディ
「記憶がないのかい?」


「まあ、そんなところです」

土方は、いまいち掴み所のなかった翡翠への事情聴取を思い出し、不思議な気持ちになる。


「あんなに真っ直ぐな目に出会ったのは、何年ぶりだろうか」


「……芹沢さん」


「初めて竹刀を手にした時を思い出した。綺麗な剣、基本通りの……手本のような」

土方は同じモノを見て、同じように感じていることを不思議に感じる。

この人にもまだ、そんな思いが残っているのかと。


「あの剣になら……斬られてもいい」

土方の胸が激しく跳ねる。


「芹沢さん、冗談を」

土方は高笑いをして見せる。


「冗談と思うか」

芹沢は土方に酔いで濁った目を向け、静かに溜め息をつく。


「酔っていても剣を見る目は確かだ」

芹沢はふらつきながら席を立った。



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