新撰組異聞―鼻血ラプソディ
武田は瓶底眼鏡を押し上げ、上擦った声を上げる。


「ええ。ああ見えて、なかなかの剣士です」

武田が感極まり、感嘆の溜め息とも雄叫びともつかない不気味な声を漏らす。


「では、鍛練の準備がありますので」

山南は一礼し、そそと道場に急ぐ。


「お荷物が多いようですね。お手伝いしましょうか」

武田が駆け寄るが、山南は「新しい剣術指南の試みですので、明日をお楽しみに」と、さらり断る。


武田は残念そうに道場の方角を見て再度、舌舐めずりをする。


――この人は信太さんに近づけてはいけない


山南は背中に、さきほどよりも強い寒気を感じて口を固く結ぶ。


道場につくと、倉庫から出した竹ザルと竹籠が真っ直ぐに並べてある。


翡翠は風呂敷を開け、お手玉を数えている。


山南は先ほど、翡翠が紙に書いた図を思い出し、抱えてきた風呂敷を置く。


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