新撰組異聞―鼻血ラプソディ
「それでしたら、数日前に永倉さんたちが梯子を使われて……元の場所にもどしておいてくださいとお願いしましたけど」


女中はおずおずした様子で俯き、小さな声で話す。


「そうですか、ありがとうございます。後片付けはきちんとするよう、きつく叱っておきますね」


「あ……いえ、わたしが話したって……い、言わないでくださいね」


女中は今にも泣き出しそうな顔を向け、山南を見上げる。


「ええ、承知しました」


山南は優しい声音でこたえ、一礼したが、その目に優しさは微塵も感じられない。


「信太さん、行きますよ」


「……はい」

翡翠は手拭いを鼻に当てたまま、頼りなくこたえて、小さくお辞儀をし、すたすたと早足で歩く山南についていく。


女中が、くすり「へんな人」と呟いたのを翡翠は聞き逃さなかった。


< 159 / 164 >

この作品をシェア

pagetop