新撰組異聞―鼻血ラプソディ
山南は翡翠の背を擦りながら優しい声で歌を口ずさむ。


「故郷に伝わる子守唄です」

もの悲しい短調のメロディ、山南は呟くように言うと歌を続ける。


小さな子どもを諭すように穏やかで優しい響き、特別上手くはないけれど、胸に響く。

子守唄なんて何年ぶりだろう、翡翠は思う。


「山南さんも、たまには早く休まなあかんえ」

翡翠は寝返りし、山南を見上げポツリ言う。

山南は真っ直ぐな、吸い込まれるような翡翠の瞳に見つめられ、頬が熱く火照るのを感じ「ええ」と、短くこたえる。


――この子は……まだ幼さの残る少年の顔なのに、時々ハッとするほど大人びた顔になる


山南は手拭いで、鼻血を押さえている翡翠の姿を思い浮かべる。


――この隔たりに、いつも調子を狂わされる。
何故か構ってやりたくなる
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