新撰組異聞―鼻血ラプソディ
たが山南さんから、近寄らないようにと言われた人がいる「芹沢鴨美」――。


穏やかな山南さんからは想像もつかない恐い形相で、「何故」と聞いてもこたえてくれなかった。


土方さんに職務質問された時。
「芹沢」と口に出した時の素早い反応と声の感じ……が、尋常ではなかったことを思い出した。




「翡翠、ちょっと……」


俺が井戸水を汲み、顔を洗おうとした時。

クールな声がした。

「昨日の総との死合い、何かタネがあるはずだ……」

「!?……斎藤さん」


――鋭いな


俺は桶に、入れかけた手を止める。


「翡翠、あんたは何もしなかった。ただ中段に構え、間合いを詰めただけだ……巧みに」


――斎藤さん!?


「上半身を揺らさず……摺り足? いや、普通の摺り足だと上半身が……」



俺は、斎藤さんの方を向かず、桶の水を見つめる。


< 65 / 164 >

この作品をシェア

pagetop