新撰組異聞―鼻血ラプソディ
半径30センチ以上、離れた位置から斎藤さんの声が降ってくる。


「あんな摺り足をするには、よほど重心がしっかりしてなきゃ無理だ……それに足?」


「敵いませんね……この世界の斎藤さんも、俺の時代の……、何も変わったことなどしていませんよ。
……指先を使えば、上半身が揺れずに、前に進める」


「指先の力で!? そんな摺り足が――。
よほど鍛練しないと、あの摺り足は……。

……近いと気づいた時には、あんたの間合い……それだけで? 総のあの動揺……あれは……」


俺は、斎藤さんがそこまで気づいていることに、溜め息をつく。



「正眼の構えですよ、青眼とも言いますよね。
……利き目に向けて徹底して竹刀を向ける……」



「確かに、あの死合い……あんたの正眼の構えは、面を打つ直前まで崩れなかった」



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