新撰組異聞―鼻血ラプソディ
あ……。


あの時の翡翠くんの顔が浮かぶ。


「あるかどうか……わかれへんけど、お饅頭ほどしつっこい甘さやないし、形がきれいやから」



翡翠くんの思いが嬉しい。


頼りなくて、可愛くて抱きつきたいほど、だけど我慢する。



「行こうか」


穏やかに声をかける。


「はい」


翡翠くんは、側に近づかない。


半歩下がって――影を踏まないくらい間をあけて歩く。


この距離が翡翠くんには、精一杯の距離。


後ろを気にしながら歩く。


「……沖田さん、金平糖は織田信長が宣教師ルイス·フロスから贈られて食べたお菓子やねんで」



「織田信長が」


「うん……俺の世界には、左京区に緑寿庵清水って老舗があんねん」


「行ってみようか」


後ろから、翡翠くんがポツリポツリと話す。
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