欲しがり屋のサーチュイン
そんな大人っぽい表情も出来るんだと目の前の男性を見ながら、千晶も湯豆腐を摘まむ。
そちらになんの得があるのか知らないが、こちらが助かったのは事実だ。
「…あの、大丈夫ですか?結構ハイペース…」
「あ、大丈夫です。私そこそこ強いんで。」
むしろガッツリ酔おうと思ったらこれ以上に飲まないといけない。
ちょっと酔えれば良いのだ。
扉を開けるちょっとした勇気さえあれば。
室長の無茶振り履歴について話しながらビール5杯目を飲んでいる途中で、千晶はやっと気が付いた。
なんとか千晶のペースに美木が合わせてくれてることに。
そしてそろそろ彼が限界な事に。
普段白い肌が紅色に染まっている。
目尻が赤くなって更に幼さを強調させている美木に千晶は戸惑いながら尋ねた。
「あの、美木さん?大丈夫ですか?」
「らいじょうぶ…れす。」
…あ、ダメだこりゃ。
千晶はちょっと戸惑いながらジョッキをテーブルに置く。
「え、もしかして、お酒…そんなに強くないんじゃ…。」
というか、聞くまでもない。
彼から3杯目のビールを取り上げ、千晶はとにかく美木を立たせてまず歩行出来るかどうか確認した。
「………。」
ギリ。
ギリ一人で帰って貰えそう。
「…別に私に合わせなくても良かったんですよ?」
千晶はタクシーを呼んだ後、慌てて会計を済ませ、身長分意外と重かった美木を肩に半分担ぎながら店の前で待機した。
もう半分寝ぼけてしまっている彼に、静かに言う。
するとすぐそばにあった顔がヘラりと笑い、なにかむにゃむにゃ言っていた。
「………。」
…なんなんだろなぁ。
千晶はまた小さなため息をついた。
ちょっと、
彼がなんの為に飲みに誘ったのかやっぱり分からなくなった。
ちょくちょく千晶はお酒が好きな仕事仲間から飲みに誘われる。
二人の時もあるし、大勢の時もあるし。
基本受け身なのでめったな事がない限り千晶は断らずにふらっと行ってふらっと飲んでしれっと帰る。
男職場のそういうノリのままなので色っぽい展開もないし、その事に千晶も安心していた。
だから今回も、勝手に美木はお酒に強いか好きなんだと思い込んでいたのだが……。
「………。」
千晶に肩を担がれながらまだ美木は可愛い顔をしてむにゃむにゃ言っている。
千晶の中で、“ただの最近入った目の保養になる仕事仲間”から、“ちょっとよくわからない目の保養になる仕事仲間”に美木の地位が変化した。