欲しがり屋のサーチュイン
リベンジ
「リベンジ…っ!リベンジさせて下さい…っ!」
次の雨の日。
仕事帰りの千晶に、美木が後ろから小走りに追いかけて来て、息を少し乱しながら言った。
千晶はキョトンと目を丸くしながらも、曖昧に頷く。
…リベンジってなんだ。
と、思っていたら、この前の失態の事らしい。
「別に失態という事の程でも、、」
「女性に支払いもしてもらってタクシーも呼んで貰って、気が付いたら家って…結構失態です…。」
あ、凹んでる。
分かりやすく顔に出る童顔の年上に、千晶はパスタを口に入れ、ただじっと見つめた。
本日は前回の事も配慮し、食べる事メインのお店を選んだらしい。
千晶も入った事がなかった小さなお店だが、結構美味しい。
わざわざ探してくれていたのか。
窓の外は相変わらず真っ暗な中、雨が静かに降り注いでいる。
千晶だけ白ワインのグラスを傾けながら、ちょっと考えた後、彼に聞いてみた。
「…あの、どうして私を誘ってくれたんですか?」
「…え?」
美木がきょとんと目を丸くする。
ただ、暇だからとか、なんとなく真っ直ぐ帰りたくないとか、なのに、新しい土地でまだ友達と呼べる人もいないから、とかだろうか。
「…プライベートでも付き合い出来る人達が欲しいなら、今度また飲み会でも開きましょうか?歓迎会の時はまだ緊張しててそんな風に出来なかったですもんね。部署が違っても、歳の近い人達がいいですかね?」
つらつらと千晶はお友達作りの下処理提案を出した。
表情乏しく、しかし口だけは良く動かしながら千晶は頭を回転させる。
…それとも。
また違う理由なら…。
「あ、いや、すいません気を使って貰って。でも大丈夫です。あの、そうじゃなくてですね…沼田さんをお誘いしたのは、その…。」
わたわたしながら美木は綺麗で長い腕を振る。
その動作に、千晶はもう一つの“それとも”の可能性を頭の中に巡らせた。
いや、まさか。
「沼田さんって、急に襲って来たりしなさそうじゃないですか。」
「………(…ん?)」
秘密を告白する時のように美木が少し照れながら下を向く。
それと対照的に千晶は言われた内容がよく分からなくて顔を上げた。