欲しがり屋のサーチュイン
「やたら触って来たり、キス迫って来たり、押し倒してきたり…そういう事しなさそうな所が安心というかなんというか…。」
えへへと聞こえて来そうな可愛らしい目の前の男性の表情に、千晶はただ無言で眼鏡を押し上げる。
…あーー…、なるほど。分かった。
千晶はホッとしたようなため息を小さく漏らした。
“あなたとは警戒しないでご飯が食べれる”、、と。
結構な安堵が千晶を包む。
本格的に千晶は肩の力を抜いた。
なるほど…。
遠慮なく追加のワインを注文し、アンチョビを摘まむ。
「…なるほど。では美木さんは以前そういう女性に迫られた事があるということでよろしいんですね?」
「…あれ?…なんか沼田さん、今笑ってません…?」
「いえいえ全然……フフッ」
美木にそういうつもりが全くないと分かってから、千晶も安心して改めて彼との会話を楽しもうという余裕が出て来た。
千晶は顔をそらしながら想像する。
この男、いったい今までどれだけの肉食女子に迫られてきたんだろう。
美木の泣き出しそうな情けない顔が安易に想像出来て、笑いをこらえるのに必死になってしまった。
「もぅ!絶対笑ってますよね…っ!」
「…笑って…ませんって……っ…ブッ…」
その日は、雨のはずなのに何故か千晶は陽気に家に帰れることが出来た。