欲しがり屋のサーチュイン
今橋元の心はズタズタに切り裂かれている。少年のような心はバリバリのビリバリに砕け、吹けば飛んでいってしまいそうな、もう粉状と言っても良い。
まぁつまり、失恋である。
「もう女は皆悪魔っす!鬼っす!バンパイアっす!!」
千晶は、うん、それを私(女)に言っちゃうのが橋元だよね、と半笑いになりつつ、ぐびっと酒を傾ける。
身長は割りと低いが眉は男らしくごんぶとで、心根は真っ直ぐでその真っ直ぐさが時折面白い事になる橋元の事を、千晶世代の人間は可愛がっていた。
「あぁー!もう、どっかに居ないかなぁ、美人で可愛くて、おっとりしてるけどしっかりしてて。身長小さくて細いけどおっぱい出ててお肌ツルッツルで、処女で一途ででもエロくって、料理得意で掃除好きで、でも口うるさくなくて、いっつもニコニコしてて、尽くしてくれて、給料少ないとか言わない子‼」
「ふーん、すごいな、男の願望って2次元だよね。」
「それで俺の事が超好きな子!後、3つ年下ぐらいならなお良い!」
段々落ち込みやけ酒モードから、いつもの兎に角明るい橋元モードになってきた後輩に千晶はクスリと笑う。
「後、金銭感覚がしっかりしてて、散財しない借金のない子!」
「……。」
橋元…、一体どんな女子に手を出してたんだ。
「そっちのぉ!美木すぁん!!あなた、あなた!!」
「…えぇ?!はい、なにかな?」
舌を巻いて喚く橋元にずっと気を圧されていた美木は突然話を振られてビクッと肩を震えさせる。
「あなた!なんか俺とおんなじ臭いするんすよねぇ…!」
「はぁ…、」
「隠しても無駄っすよ!その童貞臭!」
千晶は冷静に思った。…橋元、童貞だったのか。
そして手を出してなかったんだな、この感じだと貢いで終わったな。
不憫だ…。
「お洒落こなれた感出してますけど、分かっちゃうんですよね仲間には!俺の目は誤魔化せないっす…ふぐっ!?」
橋元節を聞きながら、美木は一瞬ポカンと口を開け、そしてその後ボッと顔を赤らめさせた。
それを見て今度は、千晶が「え?」と目を丸くする番になる。
え、そうなの?
美木はバシンと橋元の口を塞ぎ、なんとも言えない砂利でも噛んだような情けない顔で、初対面の後輩の耳元になにやら懸命に囁いていた。