欲しがり屋のサーチュイン
「今までそんな風に見えなかったのに突然襲ってくる女性も怖いし、じわじわ回りを檻で囲ってフォークとナイフ握って近づいてくる女性も怖い。」

もはや恐怖で幻覚まで見えている。

「だから俺は、こう、欲が少なくて、なんでも誰でもふわぁっと包み込んでくれる女性が好きかな、ガツガツこられるのはちょっと…」

「…なんすかそれ!モテ自慢っすかぁぁ?!」

目が座り気味の橋元に頬っぺをぐにぐにと揉まれながら美木はなにやらふにゃふにゃ喋っている。

「ちに"ゃぐっちに"ゃぐっ(違う違う!)」

「…あ、橋元、あのね。」

ワンテンポ遅れて千晶はこの間の話を思い出した。

この肉食女子ホイホイ青年の苦難を、オブラートに包んで橋元に解説する。

その間も美木はぐにぐにされたままで涙目になっていた。

しばらく黙って話を聞いていた橋元だったが、またちらりと美木を見つめ、更に激しく頬っぺをむにょむにょむにむにする。


「結局この人モテてるって話じゃねぇか…!!」

「…っーーっ」

「まぁ、確かに。…あ、てか先輩でしょうが。その辺にしておきなさい。」

やっと解放された頬に手を当てながら美木は不服そうにぶつぶつ呟いた。

「あの恐怖を味わったことないから…っ」

「そんな恐怖なら味わってみてぇ‼」

頭を抱え、とうとう座敷の畳におでこを擦り付け始めた酔っぱらい後輩を、どうどーぅ、と言いながら千晶は肩を軽く叩いた。

しばらく慰められるようにじっとしていた橋元だが、思い立ったようにガバッと顔を上げ。

「この際うなぎさんでも良いです!」

と、千晶の肩をガシッと両手で掴んだ。

は?と千晶は首を傾げる。

「んー、またトチ狂った事言い出したね君は。」

「何気にうなぎさん胸ありそうだし。今うなぎさんフリーですよね?」

「…フリーですけどねぇ。君ちょっと水飲もうか。」

「なんか良い匂いするし。女子みたいな。」

「みたいなじゃないんですけどねぇ。」

「もう女ならなんでもいい。」

「女はバンパイアじゃなかったの?」

橋元はぎゅっと千晶の手を無理矢理握った。

「どうっすか?一応体力には自信あるっす、俺。」

「うん、よし、今度エリちゃん紹介してあげる。だからこの手を離しなさい。」

「あぁぁざっっす‼‼」


素晴らしいエリちゃん効果を見た所で、千晶は握られていた手をさりげなくおしぼりで拭った。

綺麗な土下座を流し目でチラ見し、次に目の前で口をぱかんと空けている美木を喉に酒を流し込みながら見やる。

…どうした、綿菓子王子。

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