欲しがり屋のサーチュイン
最終的ににへらと陽気になってタクシーで帰っていった橋元を居酒屋の前で二人して見送る。
「やーー、賑やかだった。」
手を降りながら無表情でハハハと笑う千晶を美木は複雑そうに見下ろした。
そんな美木に気付き、千晶は店の明かりを受けて影が濃く移るふわふわ頭を見上げる。
雨は止んで、美木の背景には薄く星空が煌めいていた。
「………どうしました?」
千晶は手をゆっくりと下げながら囁くように尋ねる。
「楽しくなかったですか?」
「楽しかったです。橋元君面白い子だったし。沼田さんもいつもより砕けてて良く笑ってた。…でも、」
2秒、見つめ合う。
美木のふわふわの髪が少し風邪で揺れた。
「沼田さんは…“~さんでも良いです”なんて言い方されて良い女性ではありません。」
まるで自分が傷つけられたように痛そうな顔をしながら美木は俯いた。
ああ、なんだ。そんな事。
千晶は拍子抜けしたのと、大事に女性扱いされたこそばゆさから少しクスッと笑った。
「ああ、大丈夫ですよ。いつもの冗談です。お互いに冗談だって分かって言い合ってますから、だから気にしないでく…」
「好きです。」
「……え?」
千晶は言葉の真意が理解出来ずに目を点にする。
今、の。
どういう意味で言ったの…?
すっと顔を上げた美木は、笑っていなかった。
「俺は、冗談でもなんでもなく、沼田さんが好きです。」
いつものふわふわした笑顔をどこかに置いてきたような、思い詰めた表情で美木は千晶を見つめる。
え、
あ、、
「…あーー…。」
初めて年相応に男の人に見えるなぁ、なんてのんきな事を頭の隅で考えながら、千晶はどう答えて良いか迷った。