欲しがり屋のサーチュイン
*
カラン、、と千晶の前に置かれた重そうなグラスが氷を鳴らす。
薄暗い照明の中、“戸惑い”と顔に書いたような美木がちらりと辺りをうかがっていた。
…『ちょっと飲み直しましょうか。』
千晶のそんな言葉に、美木は緊張を緩めつつも、焦れたように眉を潜め、苦しそうにふわりと笑う。
『…はい。』
そんなやり取りの後に小洒落たbarの扉をくぐり、カウンターとは離れた小さな二人用のテーブルで千晶と美木は向かい合っていた。
さて、どうしようか…。
千晶はほろ酔いになりながらゆっくりと考える。
カラン、、
美木のアルコール度数が少なめのカクテルが揺れた。
すぱんと断れば良いだけの話ではあるが、…その後の仕事がやりずらい。…本当にやりずらい。
昔の経験から、ただ振ってしまえばそれでいいというものでもないと、千晶は知恵を絞った。
うん、出来れば向こう側から“やっぱりなかった事に”と言ってほしい。
それが一番、自分にとって都合がいい。
はてさて、どうしようか…。
カラカラとウイスキーの中の大きな丸い氷を指でつつきながら、千晶は先程の美木の言葉を思い出していた。
“ガツガツ来られるのはちょっと…”
「……。」
よし、その路線で行こう。