欲しがり屋のサーチュイン



カラン、、と千晶の前に置かれた重そうなグラスが氷を鳴らす。

薄暗い照明の中、“戸惑い”と顔に書いたような美木がちらりと辺りをうかがっていた。


…『ちょっと飲み直しましょうか。』

千晶のそんな言葉に、美木は緊張を緩めつつも、焦れたように眉を潜め、苦しそうにふわりと笑う。

『…はい。』

そんなやり取りの後に小洒落たbarの扉をくぐり、カウンターとは離れた小さな二人用のテーブルで千晶と美木は向かい合っていた。

さて、どうしようか…。

千晶はほろ酔いになりながらゆっくりと考える。

カラン、、

美木のアルコール度数が少なめのカクテルが揺れた。

すぱんと断れば良いだけの話ではあるが、…その後の仕事がやりずらい。…本当にやりずらい。

昔の経験から、ただ振ってしまえばそれでいいというものでもないと、千晶は知恵を絞った。

うん、出来れば向こう側から“やっぱりなかった事に”と言ってほしい。

それが一番、自分にとって都合がいい。

はてさて、どうしようか…。

カラカラとウイスキーの中の大きな丸い氷を指でつつきながら、千晶は先程の美木の言葉を思い出していた。

“ガツガツ来られるのはちょっと…”


「……。」


よし、その路線で行こう。

< 19 / 40 >

この作品をシェア

pagetop