欲しがり屋のサーチュイン

「美木さん、」

「はい。」

美木は口からカクテルを離し、ガバッと顔を上げた。

千晶は黒髪をゆっくりと耳にかけ、くいっと眼鏡を中指で上げる。

「先程の件、…ありがとうございます。」

「は、はいっ。」

嘘は付かない。

でもそれが真実でもない。

「私もちょうど、」

美木はごくりと喉を鳴らし、千晶を見詰める。


「美木さん良いケツしてんなぁって思ってたんです。」


「………………へ?」


目を点にして、美木は口を開けたまま瞬きを忘れた。

「白衣の上からでも、くいっと小尻が上向いてて、すごいくるものがありました。」

「…え?あ、……え?」

「後、柔らかそうな唇から、喉仏のラインが芸術的に整っています。たまらない色気を感じます。色が白いのも高得点です。素晴らしい。」

現実に思っていた事を包み隠さず力説する。

なんと言っても美木政宗は以前から千晶の観賞用物件なのだから。

「後後頭部がまるっとしているのも好ましい。手を突っ込んで髪をわしわししてみたいです。後、時折見える鎖骨も安易ですがセクシーで、ぐっっとなります。」

ぐっっと握りこぶしを下の方で作り、千晶は無表情で何度も頷いてみせた。

…明日から変態呼ばわりされる身だが、元からあの職場は変態の集まり。もう一人変態が増えようが誰も気に止めないだろう。

「そういうことで、私的にヨダレが出るほど嬉しい御言葉だったのですが、申し訳ないことに、現在ワタクシ沼田千晶は、恋人を募集しておりません。」

「…え、え?」

混乱。

まさに頭の中がぐらぐら渦でも巻いているかのように目まぐるしく美木は思考を回転させているようだった。

“欲がないような女性が好き”

千晶はまた美木の言葉を思い返す。

美木は千晶の事を好きだと言ったのだ。

だとしたら、欲がない女だなんて、とんだ勘違いだ。

「美木さん、私は、誰かと親密に心を通わせるなんて途方もないこと、望んでいないんですよ。」

千晶はぽそりと。

なにかを諦めたように、カラリと笑いながら美木に囁いた。

「でも貴方の身体には興味があります。」

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