欲しがり屋のサーチュイン
「じゃあ、私帰りますね。」
千晶はウイスキーをガバッと喉に流し込み、ゆっくりと席を立った。
「沼田さ…っ、」
ガタッと一緒に美木も立ち上がる。
「あ、私が振られたって皆には内緒にしてくださいね。」
千晶はとぼけたようにこっそりと美木に耳打ちした。
「…送ります。」
「いえ、タクシーで帰るので。」
カウンターへ向かい、こちらを見ようともしない千晶の腕を美木は少々強引に引っ張る。
「送らせて下さい。」
千晶は少し驚きながらも美木を見上げた。
「…。」
「お願いします。」
…分かりました。そう答えてから、千晶は怪訝そうに眼鏡をくいっとかけなおす。
なんだろう。
彼はドン引きして千晶から先程手を引いたのに。
この彼の思い詰めたような表情はいったいなんなんだろう。