欲しがり屋のサーチュイン

タクシーの中で、肩が触れ合う。

二人して無言だ。

車内から見える夜景はどんどんその灯りの数を減らしていく。

…とんだ飲み会になってしまった。

千晶は聞こえないようにゆっくりとため息をついた。

…気に入ってたんだけどなぁ。雨の日のゆったり飲み会。

バカ笑い強制されるでもなく、無理矢理盛り上げるでもなく、たわいない話をしながら美味しいご飯とほどよいお酒。

目の前には少々童顔だが良い男。

お互いになんでもないような話をして、目の保養になる男が迫るでもなく口説くでもなく、ただただ酒の相手をしてくれる。

どうしようもなく荒れる気持ちを穏やかにしてくれる、良いサプリだったのに。

明日からまた雨の日は一人酒か、誰か捕まえて少しテンションを上げ気味にワイワイ酒、か。

少しくらくらする頭を手でささえる。

…久々に飲み過ぎてしまったか。

はしごも久々だったかもしれない。

そんなに遠い場所でもなかったので、窓からはもう千晶のアパートが見えていた。

「すいません、そこです。」

タクシーがゆっくりと停まる。

「ありがとうございました。…美木さんも、わざわざありがとうございました。」

タクシーにお礼を良い、美木に声をかけたが、…返事がない。



ありゃ、これは相当嫌われちゃったかな…。

そう思って、千晶が苦笑いしながらもう一度美木を見上げると、



「……美木さん?…美木さん?!」

顔面蒼白で口元を必死に両手で押さえている男がいた。



「お客さん、悪いけどねぇ……。」

…当然そんな状態の客は嫌がられる訳で。

いや、分かるけどね。車内ゲロまみれとか、想像だけでも最悪だけどね。

でもさぁ…。

ブロロロ…と車の立ち去る音を背後に聴きながら、千晶は案外重たい腕を担ぎ、自宅のドアを苦労して開けた。

…あれ?なんでこうなった?

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