欲しがり屋のサーチュイン
あ、それ確実に男性が言うセリフではないです。
…
「…どうです?落ち着きました?」
「……、……ずみ、ま……、」
とりあえずトイレに突っ込んで背中を擦り、ある程度吐かした後で水を飲まし、ソファに横になってもらって、蒸しタオルを目に乗せる。
アルコールと胃酸で喉がやられたのか、声が酷い。
そんなに飲ませたっけなぁ?と首を捻って美木のそばで絨毯の上に正座する千晶は本日のアルコール量を計算し始めた。
その疑問に答えるかのように美木がザラザラした声で言い訳を呟く。
「アルコールに、つまみのチーズに、車の振動ときて…それで…。」
「ああ。」
なるほど、と千晶は納得する。
半分は車酔いかぁ。
元より彼はあの居酒屋から歩いて駅に行き、そのまま帰る予定だったのだ。
タクシーに乗るなんて、想定外だったのだろう。
千晶は、ぐったりとソファに沈む、息する屍をしばらく見つめ、まぁもうしばらくじっとしていたら大丈夫だろうとベランダに干していた服を取り込み始めた。
…若干湿気てる…。まぁ大丈夫な範囲かぁ。雨自体はかかってないし。
「美木さん寒くはないですか?」
「大丈夫…むしろ暑い…。」
なら大丈夫と千晶は洗濯物をたたみだす。
急性アルコール中毒の心配はない。
たたみながら、千晶はふと思った。
今日は雨の匂いがしていたのに、…なんにも考えずにすんなり扉を開けられたなぁ。
千晶はちらりと、ゔんゔん唸っている塊を見る。
…うーん、美木さんのお陰か、な。
千晶は眉を八の字にして、困ったように軽く微笑んだ。