欲しがり屋のサーチュイン
ピタリと千晶の動きが止まる。
…なんでこの人、勘だけは良いんだろう。
千晶が何も言わないでいると、美木はごそりと動きながら、ポツポツ話し始めた。
「俺は、…初め、あなたが苦手でした。」
美木は両手を組み、それで頭の重さを全て支えるように項垂れる。
千晶はゆっくりと肩にかけたタオルを外した。
「首の細さや、唇の動きや、振り返る仕草が似ていて……。」
“誰に”とは、美木は言わない。
千晶も、訊かない。
「沼田さんが担当って聞いたときは、失礼な話、ゾッとしてしまって…。でも、いざ仕事を一緒にしてみると、俺がビクビクしてるのすら分かってないみたいで。本当に、全く人として興味がない、視野に入っても気が付いてないって感じで。」
ふっ、と美木は嬉しそうに笑う。
「内心、少し拍子抜けしてました。今から思うと、なんて自意識過剰なのかと恥ずかしくなりますが。」
困ったように細めていた目をゆっくりと開き、美木は千晶を真っ直ぐ見つめた。
千晶は絨毯の上で膝を抱えながら、じっと美木の瞳を見つめ返す。
「そんなときです。いつも淡々と仕事して、誰にも目もくれないで生きてる沼田さんが、経過観察室の前にある植物にこっそり水をあげてて…。」
「…。」
千晶は困ったように首をかしげた。
別にこっそりなんてしていないのに。それに、“新しく入ってくる人”にはそれなりに興味があった。
「その時ね、ほんのちょっとだけ、沼田さんふわって笑ったんですよ。ほわっと。…衝撃でした。だって、全然違うんです。まぁ…当たり前ですよね。違う人なんだから。
それで初めて、あ、俺はものすごい偏見を持ってたんだぁって。こういう容姿の人はこういう人であろう、と。知ってます?偏見って、圧倒的情報不足から起こるらしいですよ。…俺は、沼田さんの事、なんにも知らないで、勝手に決めつけてたんだなぁって。……それからです。沼田さんの事ちゃんと見ようと思ったのは。」