欲しがり屋のサーチュイン

美木は包み込むような優しい目で、何かが見えているように天井に視線を漂わす。

「沼田さん、なんでもないような顔して、誰かがぶつかって斜めにしたものを、通り際にひょいっと直すでしょ。洗浄液が少なくなったら、いつの間にか補充してたり。白衣回収する日、皆のポケット確認して、回収業者の手間はぶいたり。……あげだしたら切りないですけど、すごいなぁって。」

「…えっと。…。」

千晶はなんだかむずかゆいような気がして首を擦った。

「でもこの間の陽性反応でバタバタして徹夜になった日、朝方、沼田さん一瞬上向いて寝てて、それでハッと目を覚ました時、眼鏡かけてるのに、サブの眼鏡出してまたかけようとしてたでしょ。んで、カチャンて眼鏡と眼鏡がぶるかるまで気が付いてなくって。…あれは笑いました。」

…千晶は無言で頭をかかえる。

「コーヒーを少し表情をゆるめて飲んでたり、検査確認の時の真剣な顔とか、誰かが何か言って、それに聞こえないぐらいの声で的確なツッコミ入れてたりとか、ずっと飄々としてると思ってたけど…よく見たら沼田さん表情豊かなんだぁて、思って。」

気が付いたら、と美木は千晶を見つめた。

「気が付いたら…。沼田さんの関心を、引きたくなりました。俺の事も、もっと見て欲しいって思っちゃって。沼田さんが好きそうな服来たり、髪型変えたり…。でもあんまり気が付いてないような、気が付いてもどうでもいいような…。でも、それぐらいで俺は良かったんです、良かったんですけど…。」

急に美木は不機嫌になり、千晶を睨むように眉をひそます。

え、?と千晶は戸惑った。

彼からこんな風に見られた事なんて一度もない。

「今日、分かりました。沼田さんは押しに弱い。」

「…えー、そんなこと…。」

「そんなことあるんです。」

ぐっと握りこぶしを作り、美木は力説する。

「橋元君がもっと真剣に迫っていたら。もし二人きりだったら?もう少し強引だったら?…俺は考えただけでぞっとします。なし崩し的に今頃二人でホテルに居てもおかしくはない。」

「んな馬鹿な…。」

「馬鹿な事じゃありませんっ。沼田さんはのらりくらりかわしてそうでド直球には流される傾向がありますっ!」

そして、そんなド直球な彼は突然立ち上がった。


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