欲しがり屋のサーチュイン
年下オーラ満載の年上、美木政宗はその侍っぽい名前に似合わず、どこか洋風な垢抜けた青年で、背がひょろりと高い以外はどこをどう取っても“可愛い”という言葉が一番似合う男だった。
その男がわたわたしながらまた千晶の作業台に薬品を並べて行く。
「ここ、置いておきます。」
「すみません、ありがとうございます。」
歩き方まで可愛い。
白衣の下の私服もいつも自分に似合う小洒落たものを身につけている。
千晶は当たり障りなくお礼を言って、また別の作業を彼にお願いした。
ストンと隣に腰を降ろし、千晶の作業を手伝う美木の手先は申し分ない。
新しい仕事場に慣れるまで、と期限付きの千晶の助手も、ここに来てもう少しで一ヶ月になる。
「(…うさ耳とかリアルに似合いそう。)」
「? 沼田さんどうかしました?」
「いえ。」
彼の頭部から視線をサッとそらし、千晶はなんでもない顔でしれっと作業の続きに取り掛かった。
ゴム手袋をはめた左手でトレイに決まった薬品を専用の器具で均等に塗りたくって行く。
それを決められた数きっちり作り、培養器にセットし二日待つ。
それを何百個、時には何千個と作成し、結果を報告書にまとめていく。
その時々で微妙に作業工程は違うが、だいたいは一緒だ。何万個の組み合わせを作り、観察し、報告書にまとめる。
人によってはノイローゼになりそうな職業だが、それを苦に感じていない千晶はそこそこ職場環境に満足していた。