欲しがり屋のサーチュイン
明日はどうせ土曜。
「と、とっ、泊ま…?!」
「あ、はい、大丈夫です。絶対美木さんには手を出さないって誓いますから。あ、なんなら寝てる間、私の腕縛ってもいいですよ?」
「しっ、縛りませんよ!俺そんな趣味ありませんから」
ということで、すったもんだの末、千晶はいつものベッド、美木はソファに長い足を出して眠りについた。
*
「美木さん、朝はパン派?ご飯派?」
「俺はスープ派です。」
「男性に珍しい選択肢ですね。」
「それもまた偏見ですね。」
「確かに。世の中は偏見だらけですね。つまり良く知らない事ばかり。」
「俺はもっと沼田さんの事が知りたいです!」
「あ、そういうの朝だから無しにしましょう。」
クスクス笑いながら千晶は狭いテーブルに朝食を並べていく。
むぅ、と可愛く頬を膨らませながらも美木は洗面台に消えていった。
トマトとレタスのサラダは真ん中へ。
美木の前には簡易のポタージュ。
自分の前には熱々のベーコンと目玉焼きが乗ったトースト。
「おぉ…。」
美木は席に着きながらも千晶のトーストに視線が釘付けだ。
「…これは…。…いざ目の前にあると、臭覚と視覚の圧倒的な刺激にぼこぼこにやられますね。」
よだれをたらしつつも真剣な顔しちゃってる犬に似てる。などと千晶は思った。
「あ、なんなら出来ますよ。」
「え!本当ですか?」
目をキラキラさせながら美木は顔をあげた。
あ、やっぱり犬だな。もふもふ系の。しっぽの幻が見える。
千晶はカチャっと席を立った。
「美木さん。」
「はい。」
千晶はずいっと手を差し出す。
「握手しましょう。」
「え?はい。」
美木は困惑しながらつられるように右手を出した。
ぐっと握り返しながら、千晶は、うむ、と頷く。
「やっぱり。」
千晶は手を離し、キッチンに向かう。
フライパンにベーコンを並べながら後ろの美木に顔も見ず喋った。
「美木さんが性的な接触だと判断しなければ、異性との接触も平気なんですね。」
じゅぅうとベーコンの良い音がする。
「あ、ほんとだ…。」
美木はスープをふぅふぅしながら目を丸くした。