欲しがり屋のサーチュイン




「…………………あ、出てる。」

千晶は顕微鏡から目を離さずにポツリと溢した。

「マジで?!今日残業かよー!」

斜め後ろで同僚の沖野が叫ぶ。

「良いじゃん、その分早く終わるんだし。皆、今の工程終わったら、うなぎの手伝ってー。」

今回の依頼担当の宮須が椅子から立ち上がって指示を出した。

顕微鏡の作業は目が辛い。愛用の目薬は常にポケットの中だ。

「沼田さん。俺、次手伝えます。」

はやっ、と千晶は内心びっくりしながらゆっくりと振り替えった。

「ありがとうございます。じゃあそのトレイの奴片っ端からお願いします。」

「はい。片っ端からやっつけますね。」

千晶の作業台の隣にきちんと並んだ大量のサンプルを、美木はラベルを確認しながら一段持つ。

千晶が身動き1つせず顕微鏡を見ているその肩に、美木はさりげなく顔を寄せた。

「今日、晴れですね。」

美木の柔らかい息が耳にかかる。

彼の服からふわりと甘い柔軟剤の匂いがした。

「…そうですね。」

千晶は視線をそらさず答える。

そのまま美木は自分の広い作業台に戻っていった。


「………。」


…醸すねぇ。


見た目の可愛さとはまた別に妙な色気が出てきた美木に千晶は人知れず戸惑っていた。
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