欲しがり屋のサーチュイン
人差し指と中指でゆっくりと触れるか触れないかの感覚で手の甲を登っていく。
「……っ…ぁっ。」
じ、、と千晶は美木を観察しながら一ミリ単位で指を進めた。
美木はハクハクと息を乱し、眉をキュっとひそませてぞわりとした刺激に耐える。
顔色は赤いような青いような。
「……っ、…ぁ、…ぬたさ……っっ」
もう少しでカタカタと手が震えだしそうな気配を感じ、千晶はぴたりと動きをとめた。
「はい、今日はここまで。」
パッと両手を自分の顔の横で開いてみせた千晶に、美木は困った顔のまま「…へ?」と口を開ける。
「んーと、ここでしたね。」
ポカンと固まってしまっている美木に極力触れないようにしながら、千晶は机の上に置いてあった青くて細い油性ペンで彼の腕に印をつけた。
「ちょうど、手首のー、…1センチ上ってとこですね。」
目立たないぐらいの小さな青い横棒。
美木はぼんやりと書き込まれた自分の白い手首を眺める。
千晶はてきぱきとペンを直したり美木が思わず落とした薄手のお洒落なカーディガンを拾いハンガーにかけたりと部屋の中を歩き回っていた。
ようやくストンと美木の隣に座り直した千晶に彼は何か言いたそうな顔をする。
「…………え、…と、………。」
でもどうにもその複雑な心境を言葉に変換できないようで。
うむ、と千晶は心得たように頷いた。
「分かります。美木さんものすごく敏感ですよね。」
「ギャ!違いますっ。どこをどう分かってるんですか。」
はぁ、と美木は気が抜けたようにため息をこぼし、長い足を小さく折り畳んでソファの上で体育座りなんてしてしまう。
女子力が高い。