欲しがり屋のサーチュイン
「…あ、同じ臭い。」
食事を終え、洗い物を並んで終わらせた後、一人ずつ風呂に入る。
その後千晶はソファに座りながらテレビのリモコンを掴んでいた。
ソファの後ろを移動していた美木がひょろりと長い背中を丸め、千晶の乾かしたての髪に顔を近付けてそんなことを言う。
嬉しそうな美木をちらりとだけ振り替えって千晶はテレビをぼんやり見つめた。
「梅雨、終わりましたね。」
「みたいですね。…千晶さんなんだかホッとしてますね。」
「……まぁ、そうですね。」
なんてったって梅雨時期は千晶にとって一番懐が寂しくなる季節。
しばらくは酒に消えるお金を貯蓄に回せそうだと胸を撫で下ろす。
「夏、好きなんですか?」
「んー、夏ですか…まだ嫌いにはなってないですね。」
千晶は苦笑いしながらチャンネルを変える。
嫌いになることが前提のような言い回しに美木も軽く笑った。
「嫌いな物ばかり増えます。大人になるって。」
「そうなんですか?俺は好きなものが増えたけどなぁ。」
ふわりと少しの距離を保って美木は千晶の隣に腰を下ろす。
「夜中の暗いのも平気になったでしょ?ピーマンも好きになったし、人と話すのも平気になったし。」
千晶は小さい頃の美木が自然に頭に浮かんで思わずクスクスと優しく笑った。