欲しがり屋のサーチュイン
フゥーと息を吐く千晶の耳に研究室のアイドルの声が届く。
「お疲れさまですーっ。お茶入れましたー良かったらどうぞー。」
「おっ!気が利くねぇ!」
嬉しそうな男達の歓声の後、最後に千晶の机にもコトンと湯気の上がったココアが置かれた。
「千晶せんぱいもどうぞ♪」
「ありがとう、エリちゃん。」
新卒のアイドルはキラキラの笑顔でその場を後にする。
あーー、癒されるわーー。と思いながら千晶も男共に混じってつかの間の休息を味わった。
女性の研究員は少なく、このチームも8人中、女は千晶とエリだけだ。
その中でもチームに潤いと花を与えているのはやっぱり若くて可愛いエリの役割で。
エリが来るまで紅一点だった千晶は、今までの自分の女子力の無さに改めて気付かされる。
お茶出しどころか、ピーク時には変態研究員に混じって化粧も落とさずに研究室に何日も缶詰作業。
エリの「仮眠時間無くても良いんでお願いですから1日一回お風呂だけ入りに帰らせて下さい!」発言で、あ、これが正しい女子の反応かー、と学習したのだ。
そんな事に気が付いた時にはもう千晶は手遅れ。
周りの男からは既に、女、沼田千晶ではなく、同志、“研究室のウナギ”で定着していたのである。
ゆっくりココアを飲み終わり、小さな給湯室にのんびりと足を向けるとぐちゃあと相変わらず男の巣さながらに洗い物の山が出来上がっていた。
…さっき洗ったばかりなのに。
仕方ないなぁと千晶はまた白衣を腕まくりし、コーヒーカップやコーヒーメーカーの器、スプーンを泡だてて洗って行く。
最後にステンレスも磨き上げ、洗い終わったコップ類をフキンで拭き、決まった棚に直して完了。