欲しがり屋のサーチュイン
ラボに戻る前に男女兼用のトイレに行き、これまた色々うわぁー…と思い、用を足した後に軽く掃除をして最後にトイレットペーパーを三角に折り、千晶は何気ない顔で出て行った。
「おっそいぞウナギ。」
「はいはい、トイレですよ。」
同期の三枝の小突きをかわしつつ、自分の作業台に戻る。
明日の為に机の上を整頓し、ラボの端っこに備え付けてある自分用のロッカーに白衣をしまった。
号令もかかっていないが、時間なのでちらほらラボの中央に皆集まる。
まだ白衣を着ているのは残業組。
白衣を抜いでいるのはそのまま帰宅組だ。
今日はだいたい半々といった所。
千晶の隣にスッとエリが並ぶ。
彼女ももうバッチリ可愛い私服に身を包んでいた。
室長のミーティングを聞きながら千晶はさり気なく窓の外に目を向ける。
「………。」
一向に止みそうにない雨に、気分がちょっと落ちてしまった。
真っ直ぐ帰りたくないな…。
千晶は眼鏡の位置を直しながら小さな小さなため息をつく。
アパートの扉を開けるあの瞬間が嫌だ。
ミーティングが終わった後、千晶はフラフラと隣の会議室に足を向けた。
誰もいない会議室の机に行儀悪く腰を乗せる。
ふと見上げたボードが汚れたままだったのでついでにふいておいた。
拭いている間に目に入ったゴミ箱が満タンだったのでこちらも回収ボックスに持って行く。
…さて、どうしようか。
時間潰しが終わってしまって、千晶はさっきタイムカードを切ってしまった事を少し後悔した。
誰かの作業でも手伝えば良かったか。
でもやはり研究員には変態が多い。
それぞれ仕事に独自のやり方とこだわりを持っているので応援要請がない限り口出しはNGだ。
どこか一人で、飲みにでも行こうかな。
ゴミ箱を持ったままそんな事を思いながら会議室の扉を開くと、さっきはいなかった人影がこちらを振り向いた。