欲しがり屋のサーチュイン
「あっ、沼田さん!」
パァ…っと可愛い小花を咲かせたように美木がはに噛む。
ほわほわしたオーラに一瞬雨のジメジメを忘れたが、千晶はあまり表情を変えずズレた眼鏡をスッと直した。
「お疲れ様です…っ。」
「お疲れ様です。どうなさったんですか?」
千晶はゴミ箱を定位置に戻した後、素直に疑問を口にする。
会議室に用のある人間なんて、今の時間、暇人の千晶ぐらいだ。
「あ…っ、えっとその…っ、ふと見たら会議室の電気が付いてて…なんだろうと思って覗いてみたら沼田さんのカバンがあって…それで。」
あははと照れながら頭に手をやる仕草も申し分なく可愛い。
肌の色が白く、綺麗なのもあるのだろう。
こんな可愛い男が世の中にいるのかと千晶は改めて感心した。
「あの、それでその……沼田さん、」
美木が普段以上にもごもごしながら、彼より背が低いはずの千晶に小さくなりつつ言い淀む。
千晶は根気強く…というかただボーっとしながら彼の言葉を待った。
「その…もし良かったらなんですけど…、」
「………。」
「あっ、本当用事なかったらとかで良いんですけど…、」
「………。」
「この後…飲みに行ったりしない…ですか?」
「いいですよ。」
ズルズルズルズルやっと出て来た美木の言葉に千晶は即答する。
その千晶の反応に、人並み以上に美木本人が驚いて可愛らしい目を更に丸くした。
「え…っ!本当にいいんですか?!」
「え?はい。」
「よ、良かったー…っ」
「?」
「いえっ、なんとなく断られるかと思って…。」
嬉しそうに苦笑いする美木に千晶は軽く首を傾げる。
それ、周りからも良く言われるなぁ。とぼんやり思いながらも、千晶は美木の隣にある自分のバッグに近寄った。
ちょうど良かった。雨の日の道連れが出来た。
「どこ行きます?」
何気無い感じで答えながら千晶は自分のバッグを肩にかける。
「あっ!えっと、沼田さん何が食べたいですか?」
「私は、飲めればどこでも。」
ふわふわワタワタと相変わらず幸せオーラを放ちながら千晶の後ろを駆け足で美木が追いかけた。