欲しがり屋のサーチュイン
暗い夜道、傘を差した二人が並んで歩く。
本当に飲めればどこでもよかったので、近くの安い居酒屋を選んだ。
掘りごたつに向かい合って座り、とりあえずビールを頼む。
お疲れ様です、と改めて小さく乾杯すると、美木は照れたように笑顔になった。
得意の八の字眉を無表情でぼんやり眺めながら千晶は冷たいビールを仰ぐ。
あーー店で飲むアルコールって、やっぱり良い。
自分へのご褒美に早速気分から酔いながら千晶は美木にゆっくり話し掛けた。
「…うちの仕事場には慣れましたか?」
「あっ、おかげさまで。沼田さんに感謝です。」
「…上の人も、ちゃんと年上に当てがったらいいのにねぇ。すいません、私なんかで。」
「いえ!沼田さんで良かったです!教え方分かりやすいし。」
何が嬉しいのかニコニコ話す美木に千晶は更にビールを煽る。
枝豆を剥きながらムクムクと湧いて出た疑問を千晶は内側でひっそり考えていた。
「沼田さんが付いてくれるのも…後少しですね。」
「…ああ、なるほど。」
早速疑問が解決し、つるりとした緑を口の中に放り込む。
なんでこんな雨の中、誘ってくれたんだろうと思っていたのだ。