欲しがり屋のサーチュイン
「沼田さんって、入ってからずっとあのラボなんですよね?」
「…そうですね。いつ異動命令が出るか分からないですけど、今のところ引越しせずに済んでます。荷物、片付きましたか?」
引っ越しは面倒臭い。
「なんとか。でもまだこっちの交通機関に慣れなくって。車移動が基本の田舎だったんで。」
「…免許持ってるんですか?」
「あはは、一応。こっちに来て乗る機会ぐっと減りましたけどね。」
美木と当たり障りない話をしながら千晶は二杯目のビールを注文する。
表情乏しいながらもスラスラ会話する千晶に、ふと美木はホッとした顔で笑いかけた。
……?
千晶が不思議そうな顔をすると、美木は微笑んだまま言葉をこぼす。
「…良かった。沼田さんいつも雨の日憂鬱そうだったから。アルコール好きなんですね。」
「……アルコールは好きですね。」
観察が得意なのは同業者ゆえか。
千晶はハイペースで二杯目を飲み干しながら、チラリと美木を逆に観察した。
「…だからわざわざこんな日に誘って下さったんですか?」
「…迷惑じゃなかったですか?」
「いえ、助かりましたよ。」
「…あの、それって。」
「…秘密です。」
千晶は彼に初めてニコリと笑いながら追求をやんわり拒否する。
美木は苦笑いしながら自身もビールを煽った。