甘噛みイサキちゃん。
ウサギの皮を被ったオオカミちゃん
珍客
"Azzy"
今から10年ほど前、俺が29歳のときに始めたアイリッシュパブは、駅前ということもあり、開店当初から多くのお客様に愛されて来た。
"Azzy"という店名は、開店のための援助をしてくれた母・あずさが、俺の父から呼ばれていた名前だった。それを借りたのだ。
父はイギリス人だった。
日本でモデルをしていたときに母にであったのだという。俺が言うのもなんだけど、なかなかの男前だった。
母は実に日本人女性らしく小柄で、まるで少女のような風貌であった。明るく好奇心旺盛で、父のこと、そして家族をとにかく愛していた。
父は俺が25歳のときに、そして母は、店を開店してから一年後になくなっている。
こんなことなら早く結婚して、孫の顔でも見せてあげればよかった。そう悔やんではいるものの、毎日出会うお客様に、美味しいお酒を味わっていただく生活に喜びを感じている。