甘噛みイサキちゃん。

"え、えへ"というイサキの返事の意味を俺は知っている。

普通の女の子なら年齢より上に見られるのは嫌がるものだけども(2、3個上ならまだしも)、この子は嬉しいのだ。


えへ、は苦笑いではない。
えへ、は照れ笑いなのである。


"早く大人になりたいんです。だからここにも。バーは大人すぎて怖いけど、パブならもっと気楽だし、なによりこうしてたくさんの人が声をかけてくださいます"


以前、彼女がこう言っていたことをよく覚えている。同時にどこか寂しげな目元を見た気がしたけど、今とってはその理由を聞くのも違う気がして。


「イサキちゃん、話し方が落ち着いてますからね。顔は未成年みたいなのに」

「本当になー。こんなとこにこんな若いこがいるのも珍しいよな!店長!」

「ええ。イサキちゃん目当てに来てくれる人もいらっしゃるんですよ」


友人同士で来店されるお客様も多い中で、イサキちゃんが一人でいつも来ることを知ったお客様は、彼らもまた一人で。ということがざらにある。


いっそのこと働いてくれたらいいな。でもやっぱりサナダくんにチャンス与えてるようなものだからやめておこう。


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