1%のキセキ




会社に着くと、一応「おはようございます」と挨拶をする。

6人程しかいない部屋で、小さく会釈し返事をしてくれたのは1人だけ。

昨日会社で私がすごい形相をしていたのを気にかけて、わざわざ家まで様子を見に来てくれて救急車を呼んでくれた子だ。新人さんで私が教育係として色々彼女に教えていた。

あとで彼女にはお礼をしなきゃならないな。

あとは私をちらっと見て、素知らぬ顔で仕事を続ける。

……どうやら私はこの職場で軽蔑されているらしい。


『望月さんのあの目どうしたんだろうね、泣き腫らしたみたいに真っ赤だけど』
『知らなーい、何人もいるお医者様の彼から振られたんじゃない?』
『仕事取るために、今まで何人の医療関係者と関係もったんだろうね。プライドないのかな』


会社のデスクに着くなり、背中からひそひそ話が耳に入る。

……こんなこといつものことだ。
ここにいる全員私の敵なのだから。


唇をきゅっと噛みしめながら、資料を睨みつけた。


ポケットから薬を取り出すと一粒口の中に入れる。
その後水と一緒に流し込んだ。


こうやって昼夜関係なく、睡眠導入剤やら抗不安剤を常習するようになった。
心底自分が情けないと思った。
結局、薬の手伝いがなくては耐えられないなんて。

そしてとうとう、ポケットに薬のシートがないと不安になってしまうようになった。
薬を飲む頻度、容量は増していった。
完全に薬に依存していたのだ。


そして、運ばれる先はここだろうとは思っていたけど、まさかその日の担当が黒瀬先生だったなんて。

どうしようもない先生だと思っていたけど、意外に面倒見が良くて優しくしてくれた。

態度も言葉づかいも粗暴だけど、ただの顔見知り程度だった私を家に泊めてくれた。
会えば生意気なことばかり言っていたのに。


そしてその日ばかりは彼の腕の中で、薬を使わずに眠ることができたのだ。


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