1%のキセキ
<side 黒瀬>
またおいで、とは言ったが。
まさか、彼女が本当に連絡をよこすとは思わなかった。
まるで全く懐かなかった人間不信の捨て猫が、やっと甘えてくれるようになったようで少し嬉しかった。
いつものようにベッドへ入る。
実のところ、彼女が寝れているのかは分からない。
この前も俺の方が早く眠りについてしまっていたから。
しかし、その夜は、プチップチッという物音で目を覚ました。
抱きかかえて寝ていたはずの小さい彼女はいない。
ベッドサイドにある照明をつけると、暗がりの中ベッドの横で丸まった彼女を見つけた。
「栞?」
なんだそこにいたのか、何してるんだ、と声をかけようとしたところ、彼女の手に握られた空の薬のシートに思わず肩を掴む。意識はしっかりしていたが、目を瞑って口を必死に両手で覆っている。
まるでそこにまだ薬が残っているようで、口を荒げた。
「何錠飲んだ、口開けろっ」
口の中に何錠残っているのか分からない。でも、一気に飲み込まれたら、と焦って両手を掴むと、無理矢理口の中に指を突っ込んだ。
だけど、舌の上で形あるものに触れない。そうこうしているうちに噛みつかれ、急いで引っこ抜いた。
遅かったか……、そう思った次の瞬間舌の下から白い錠剤が複数見つかって、思わず身の毛がよだつ。
「お前、まさか舌下してんのか……っ!」
薬の舌下吸収とは、一般的な内服のように消化管を介さず、舌下粘膜から直接血管に吸収させるもの。
心臓発作など即効性を求められる場合、使用されるような内服方法だった。
精神安定剤をこんな方法で大量に服用したら……、思わず、ぞくっと身震いする。