1%のキセキ


「先生、流れ星っ」

30過ぎた女が無邪気に夜空を指さしそう叫んだ。
不意に、その姿が可愛いらしいと思った。

絶対調子に乗るから、口には出さないが。

彼女につられるように空を仰いだ。


一面に広がる星屑に、思わず感嘆の声を漏らした。


「……綺麗だな」

「冬の空は特に澄んでますからね。私こっちに来て一番良かったなって思えたのがこの夜空なんです」

「あぁ、本当に綺麗だ」

……こんな感覚は久しぶりだ。
素直に何かを見て綺麗だと思えるなんて。



随分うちの勝手に慣れたのか、持参のエプロンをしながら料理を作り、その合間に手際よく風呂を沸かしていく。


「先生、お風呂湧きましたよー。今日は、柚子を入れてみました」

そう言いながら、居間にいる私に声をかけてきた彼女。
柑橘系の香りがすると思ったら、香りの元は風呂場からだったか。


「あぁ、どうもありがとう」

「一緒に入ります?」

にこっと茶化すように言われ、白けながら答える。

「入る訳ないだろ」

「冗談ですよ。料理の準備してるので、さっさと入って来ちゃって下さーい」


柚子の良い香りが充満している浴室、湯に浸かると体が芯から温まっていくような気がした。

はーっと、長い息を吐く。
全身の疲れが取れるようだった。

……少し窓を開けてみようか。
寒いかもしれないけど、さっきの星が見えるかもしれない。

そう思って窓を開けてみた。
思った通りそこには、夜空一面に星々が音もなくきらめいていた。

はぁ、と吐く息が白い。

しばらくすると、ぶるっと寒気がしてゆっくり窓を閉めた。
少し体が冷えてしまったかと思ったら、すぐに温まった。


そんなごく当たり前の一連。

だけど俺には、何もかもが新鮮だった。
それは軽く感動すら覚える程。




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