1%のキセキ
<side 皐月>
部長の部屋に初めて来た次の日、早速持ってきたのは、生活用品店で買ってきた花の植木鉢だった。
殺風景なあの部屋に少しでも生のあるものを入れたかったのだ。
そこで選んだのは丈夫で枯れにくいと言われている、薄紅色の八重咲きカランコエ。
幾重にも折り重なった花びらは、まるで鉢全体がブーケのような華やかさがある。
そして一番気に入ったのはその花言葉だった。
どうか彼を見守ってくれますように、そう願いを込めて家主本人の許可もなく居間へ飾った。
当初それを見た彼の、あのいかにも余計なことをしてくれるな、という顔を今でも忘れられない。
だけど、自分もタフなもんだ。
初めの頃は、ほとんどろくな会話もなかったがしつこく接しているうちに、部長の方が折れたのか少しずつ相手をしてくれるようになった。
「侑吾さん。どうぞ、ご飯ですよ」
木目の綺麗な座卓へ、料理を運んでいく。
「気安く名前で呼ぶんじゃない」
「私のことも名前でさつきって呼んでくれて構いませんよ?」
「誰が呼ぶか」
もごもごと箸を口に運びながら、そう言う。
露骨に嫌そうな顔をされたが、料理を作ればいつも良く食べてくれた。
それが嬉しくてたまらなかった。
「あの花なんて言うんだい?」
部長からそう、おもむろに聞かれた。
それは、居間の隅に飾られた薄紅色の花のこと。
質素な部屋に鮮やかな彩色を放つ可愛い花。
「カランコエです」
「そうか、綺麗だな」
「はい、八重咲と一重咲き、釣鐘タイプのものまであるんですよ。それぞれ花言葉も違うんです。少しは興味持って頂けました」
買ってきた当初は見向きもしなかったのに。
「……いや、理津子も花が好きだったから。マンションに住んでいた頃は狭いベランダにプランターを並べて育ててたよ」
目線をふと落とし、そう話し始めた。